発明を保護するために存在する「特許権」ですが、取得していると自身の特許発明実施を占有できるとともに、第三者による無断実施を排除することが可能になる権利です。しかしながらこの特許は取得することがゴールではなく、取得してから重要であることをご存じでしょうか。
特許権を取得した場合、毎年一定の特許料が維持費としてかかってきます。これは審査請求をした出願年度によって金額が異なりはしますが、年数が経過すればするほど維持に必要な金額は大きくなっていきます。そのため、特許権は持っているだけだとお金がかかる一方になってしまうのです。
登録されている特許のうち、どのくらいの特許権が利活用されているかご存じでしょうか。特許権が発行している「特許行政年次報告書2020年版」に記載されているデータによると、国内における特許利用率は2018年で47.6%となっています。つまり、半数以上の特許権が自社実施も他社への実施許諾も行っていない、いわゆる未利用のままとなっているのです。
参照:https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2020/index.html
製造や販売にしっかりと利用する
まず最初に考えるべきなのは、やはり自社内で利活用することです。せっかく取得した特許技術なのであれば、製造や販売という業務フローの中でしっかりとキャッシュフローを生み出せるように活用することを考えましょう。ただし、当該発明を活用した製造などが不採算となっている場合やその特許技術を有効活用できる人材が退職などにより不在となってしまった場合には、別の活用策を検討するようにしましょう。
特許権について自社内での活用余地がないと判断される場合は、まず事業会社へのライセンス許諾を考えることが可能です。他社にライセンス提案を行うにあたっては、自社で個別企業に単独提案を行う方法や特許マーケットプレイスによるデータベース活用があります。自社で個別企業にアプローチを行う場合には、収益も自社で独占できるうえに活用に関する意思決定を行いやすいというメリットがあります。一方でマーケットプレイスを活用する場合は一度特許を掲載してしまえばあとはライセンシーが現れるのを待つだけとなりますが、不確実性が伴う点には注意が必要になります。
また、場合によっては有償ライセンスではなく無償ライセンスによるアライアンス・協業も考えることが可能です。場合によっては両社のシナジーにより、価値の向上を実現できるかもしれません。
ライセンスの許諾を行う他に考えられるのが、特許権の売却です。ターゲットとしてはライセンスと同様になり、アプローチとしても基本的には同じです。購入する企業側としては通常実施権のみならず専用実施権も確保しておきたい場合などにおいてと特許の譲渡を受けることになりますので、自社の保有している特許技術を必要としている個別企業へのアプローチや特許マーケットプレイスの活用により提案を行いましょう。
日本におけるパテントプールとは、特許などの複数の権利者が、それぞれの所有する特許権またはライセンスの権利を一定の企業や組織に集中させ、当該企業・組織を通じて構成員が必要なライセンスを受けるものをいいます。これはライセンス関連業務の簡素化や紛争の回避、市場拡大といったメリットを受けることができる制度です。一方でライセンシーサイドから見ても同様のメリットの他、ロイヤルティ金額の低減も図ることができるため、ライセンサーはただ特許権を持っているだけに終わらず有効活用することができる仕組みとなっています。
なお、パテントプールを運営している企業は1社ではないため、自社から積極的に提案をかけることも可能です。さらにはパテントプール側から参画についての提案を受けるケースもあります。
いかがだったでしょうか。ここでは「特許権は持っているだけではもったいない」というポイントを解説しました。
特許出願はあくまでも「入口」であり、重要なのは登録後いかに特許権を有効活用していくかの「出口」を考える事です。特許権の登録を検討しているもののどのように戦略を考えればいいかが分からないような場合は、知財戦略に強いプロの事務所に相談してみるのはいかがでしょうか。
所長弁理士 坂本智弘
所属
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